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松吉という人。 [俺たちは志士じゃない]

 今回の松吉は、文学座の浅野雅博さん。
 直接お会いする前に、浅野さんのブログ「産直あさの通信」を読んでいたのですけど、なんとも、演劇をやっている人の匂いがしないというか、そういう人にありがちな野性味というか、がつがつした感じというか、そういうものが、文章からも感じられないのです。
 が、それは芝居でもそうで、ものすごくスマートで、しかしキラキラしたものを普段から感じます。
 東京公演の千秋楽の楽屋で録音した僕のPodcast番組にも出演していただいているので(「加藤の今日ブログ」http://blog.so-net.ne.jp/caramelbox-kato/2006-07-02-3)、それを聴いてくださった方にはなんとなく浅野さんの持つ「空気」が伝わったのではないかな、と思うのですけど、なんというか、しなやかで、才気煥発と申しますか、それなのに居住まいは「普通」な感じで、近くにいるだけで男でも周りがゾクゾクするような不思議な色気を持った方なのです。
 

 
 酒が好きで、オンナ好き、というよりはかえでにぞっこん、という松吉。
 臆病者のようで、よく考えてみれば、本当に「いわゆる普通の人」なのかもしれない松吉。

 
 過去の上演では、「日本を俺に任せるな!!」というセリフが松吉のクライマックスだったように思っていたのですけど、今回は「志士なんかなるんじゃねぇっ!!」というところに頂点を持ってきているように思います。
 食うために新選組に入ってしまい、そこで新選組隊士として人殺しの現場に居合わせ続けてしまった、松。いかなる志があるにしたって、人が人の命を取るということに納得がいかない松。
 
 「役者」として、「劇団」として売れていくためには、きっと嫌なこともしていかなければならなくて、俳優として、舞台人として、持ち続けていたいプライドを捨ててでもやらなければいけない仕事もあったりするのではないかと推測します。
 でも、そこまでして売れたいとは思わない、と僕は思ってきました。
 僕らは、最低限、お客さんからいただいたチケット代で食えていければいい。ヘンな処世術を身につけて、あっちにいけばあんなことをしゃべって、こっちにいけばこんなことをしゃべって、どんどん自分で作りあげていった自分像にほころびが出てきて、結局自分っていったいどこにあるんだろう、と悩むようなことをしてしまったら、なんのためにこんなに楽しいことをしているのかわからなくなってしまう。今、この舞台をやり、より良くして、より一層お客さんに楽しんでいただくためにはどうすればいいかを考えて、日々を過ごす。そういうことをやっていきたい、と信じて今日までやってきました。
 
 今回の浅野さんが演じる「松吉」を見ていて、かえでに「うそつき」と言われた瞬間に、なぜか僕の胸が痛みました。松吉のそれは、嘘ではなくて、きっと、処世術だったんだろう、と。うまいことその場だけを取り繕って、逃げ切れないかと思っていたんじゃないか、と。
 でも、それを繰り返していては何も先に進まないし、辛くなるのは自分なんだから、「うそ」を繰り返した後に「本当のもの」に出会いさえすればウソをついたり自分を大きく見せたり他人を攻撃したりする必要など無い、ありのままに自分をさらけ出して生きていくことがいちばん楽だし大切なんだ、と気づくときがやってくるんだ、と思うのです。
 そんな「迷い」と「出会い」と「覚悟」を乗り越えた松吉が、志士ではなく武士でもなく、町人に戻ることを選ぶラストシーン。
 それでも、志士と町人に分かれることになった竹に、面と向かっては言えなくて、木に駆け上って「必死で逃げろ!!」と叫ぶところは、身分や生き方なんて関係ない、人として何が大切なのか、を突きつけられたような気がしました。
 客席から見ていると絶対に見えない、あの瞬間の顔が見たくて、僕はゲネプロで舞台裏に潜入。その瞬間の浅野さんの顔を望遠レンズでとらえました。

 ……素敵です。
 
 コイツと竹のおかげで、本物の龍馬たちは薩長同盟を成すことができたというわけです、この話では。でも、もしかしたら、本当に松と竹はいたのかもしれませんね。
 ……と思わせてくれるのが、「ファンタジー」なわけですね。やめられません。


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コメント 3

優

何があっても、やめないで下さい。
「ファンタジー」があるから、人生やっていけるので。
「ファンタジー」はある、って、キャラメルボックスのお芝居が信じさせてくださるので。
今回、「普通の人」がどれほど格好良く輝けるか、松吉さんが見せてくださいました。最高の「ファンタジー」でした。
by 優 (2006-07-05 00:22) 

Matie

最後の木に登って叫ぶときの写真。
こんな顔をなさっていらっしゃるんですね。
色々な感情が出てきましたが、うまく言葉に出来ません。
素敵です。
by Matie (2006-07-06 22:39) 

ゆん

セリフで聞いたときにもじわっときましたが
浅野さんの表情には思わず落涙してしまいました
完敗です
by ゆん (2006-07-08 23:50) 

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